TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示

更新日:10月7日

最終更新日:2021年10月7日


 TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示に対する注目度が、近年ますます高まっています。今後、自社のステークホルダーから適切な評価を受けたり、更なる事業拡大をしていくためには、自社の気候変動リスクを、どのように捉え、対策し、ひいてはどう情報開示をするかを考えることが、企業価値の向上に直結します。

 実際、弊社のお客様からも、「そもそも気候変動リスクや、TCFD提言とはどのようなものなのか」や「具体的にどのような情報開示や実務対応をしていけば良いか悩ましい」などのご相談が寄せられています。

 この記事では、そのようなお悩みを持つ企業のIRやサステナビリティ/CSR推進部署のご担当者様に向けて、執筆いたしました。

 以下、TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示の考え方や、昨今の制度化の流れをご紹介いたします。


目次

  1. TCFD提言とは

  2. 気候変動リスクの移行リスク・物理的リスクとは

  3. 移行リスク

  4. 物理的リスク

  5. TCFD提言沿った気候変動リスクの情報開示義務化の流れ

  6. 日本での気候変動リスク開示制度化の動き

  7. 世界での気候変動リスク開示制度化の動き

  8. TCFD提言に沿った情報開示内容とは

  9. シナリオ分析について

  10. シナリオ分析とは

  11. シナリオ分析の方法

  12. まとめ


1.TCFD提言とは

 2015年のパリ協定採択の流れを受け、気候変動リスクを評価する動きが世界的に広まっています。

 このような中で、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures, 気候関連財務情報開示タスクフォース)が、G20財務大臣及び中央銀行総裁の意向から、金融安定理事会(FSB)により設置されました。

 TCFD提言とは、TCFDにより、効率的な気候関連の財務情報開示を企業等へ促すための方法や考え方が記された報告書(2017年6月公表)のことを言います。TCFD提言と呼ばれる文書とは、最終報告書・附属書(セクター別補足文書)・技術的な補足文書(シナリオ分析用)の3種で構成されています。

 日本においては、経済産業省が、TCFDガイダンス(気候関連財務情報開示に関するガイダンス)を2018年12月に公表するなど、TCFD提言への対応に向けた機運が高まっています。

 TCFD提言の詳しい内容や情報開示に必要になる項目については、以下本記事でご紹介します。

 


2.気候変動リスクの移行リスク・物理的リスク

 そもそも、気候変動リスクとはどのようなものなのでしょうか。

 TCFD提言では、気候変動リスクは、移行リスクと物理的リスクに大別して説明されています。移行リスクと物理的リスクは、よく用いられる分類方法なので、ここで整理しておきましょう。


■移行リスク

 TCFD提言では、移行リスクについて以下のように説明されています。

“低炭素経済への移行は、気候変動に関連する緩和と適応の要求事項に取り組むための広範な 政策、法律、技術、市場の変化を伴う。これらの変化の性質、スピード、および焦点に応じて、移行リスクは組織に対して様々なレベルの財務リスクと評判リスクをもたらす可能性がある。”

 つまり、移行リスクとは、低炭素経済への移行に伴い発生する政策・法務・技術 革新・市場嗜好の変化等に起因した損失のリスクのことを指します。

 例えば、今まで温室効果ガス排出量を多く出すビジネスモデルを展開してきた企業が、取引先の需要の影響を受けることなどが、移行リスクにあたります。

 また、移行リスクには、以下のような種類が挙げられます。

  • 政策と法的リスク

  • テクノロジーリスク

  • 市場リスク

  • 評判リスク


■物理的リスク

 TCFD提言では、物理的リスクについて以下のように説明されています。

“気候変動に伴う物理的リスクには、個別事象に基づく突発的なものと、気候変動パターンに沿って長期にわたるものとが存在する。そのような物理的リスクは、資産に対する直接的損害や、サプライチェーンの中断による間接的影響などにより、組織に財務的影響を及ぼしうる。また、組織の財務パフォーマンスは、水資源の量、水源、水質の変化や食糧安全保障体制のほか、組織の施設や事業運営、サプライチェーン、輸送ニーズ、従業員の安全に影響を及ぼす極端な温度変化の影響を受ける可能性がある。”

 つまり、物理的リスクとは、気候変動による資産に対する直接的な損傷やサプライチェーンの寸断による財務損失のことを指します。

 例えば、企業が、豪雨や洪水などの気象事象の発生で自社工場などが操業できなくなり財務影響を受けることなどがあげられます。

 また、物理的リスクは、時間軸により2種類に分けられます。

  • 急性的リスク

  • 慢性的リスク



3.TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示義務化の流れ

■日本での気候変動リスク開示制度化の動き

 TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示は、以前から重要視されていましたが、ESG 投資やSDGsに対する社会的意識の高まりもあり、近年その流れがより活発化しています。


 日本経済新聞でも、「企業の気候変動リスク、開示を義務付けへ 金融庁検討」(2021年7月26日付)や「気候変動、4000社に排出量・損失影響開示求める 金融庁」(2021年10月5日付)にて、今後の動向に関する報道がなされました。

 上記報道では、上場企業等が提出する有価証券報告書に気候変動リスクの記載を求める議論を金融庁中心に始め、早ければ2022年3月期の有価証券報告書から気候変動リスクの開示を義務化する可能性がある旨が報じられています。


 今後の動向はより注視していく必要がありますが、開示に関する取り決めは既に整備され始めています。

 例えば、コーポレートガバナンス・コードの改定(2021年6月)により、金融庁と東京証券取引所は、2022年4月の市場区分変更で設ける実質最上位の「プライム市場」に上場する企業に気候リスクの開示を求めています。(しかし、この情報開示は義務ではなくあくまで自主的な行動を呼びかける位置づけです。)

 また、「プライム市場」上場企業の気候変動リスクの開示方法として、TCFD提言に沿うことを求めており、法的な開示義務化が予想される有価証券報告書における開示基準も、同様のTCFD提言に基づく開示基準になる可能性が高いと想定されています。


 情報開示に対する社会的なスタンス自体が、従来の「情報開示して優秀」から「情報開示して当然」への流れとなることは避けられないでしょう。



■世界での気候変動リスク開示制度化の動き

 気候変動リスク開示の制度化の動きについて、世界では、特に環境意識が強いとされているヨーロッパをはじめとして精度整備の動きが強まっています。

 例えば、フランスでは、既に気候変動リスクの開示が法制化されており、TCFD提言に基づいた開示についても検討中という状況です。


 今後は、更に多くの国々で、制度化の動きが強まる可能性は非常に高いでしょう。



4.TCFD提言に沿った情報開示内容

 では、実際にどのような情報開示をすればTCFD提言に沿ったものとなるのでしょうか。

 TCFD提言では、企業等に対し、気候変動関連リスク・機会に関して、下記の4項目(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)について開示することを推奨しています。TCFD提言が各項目において、開示を推奨している内容をご紹介いたします。

 

  • ガバナンス

 ガバナンスでは、気候変動リスクをどのような組織体制で検討し、それを企業経営に反映しているかを開示されることが求められています。

 ガバナンス項目で推奨されている具体的な開示内容は、以下のとおりです。

  1. 気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する

  2. 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する


  • 戦略

 戦略では、気候変動リスクが、短期・中期・長期にわたり、企業経営にどのように影響を与えるか、またどのような戦略を立てているかを開示することが求められています。シナリオ分析については、この項目で開示が推奨されています。

 戦略項目で推奨されている具体的な開示内容は、以下のとおりです。

  1. 組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスク及び機会を説明する

  2. 気候関連のリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する

  3. 2℃以下シナリオ含む、さまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明する


  • リスク管理

 リスク管理では、気候変動リスクがどのように特定、評価、管理しようとしているかを開示することが求められています。

 リスク管理項目で推奨されている具体的な開示内容は、以下のとおりです。

  1. 組織が気候関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する

  2. 組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明する

  3. 組織が気候関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する


  • 指標と目標

 指標と目標では、気候変動のリスクと機会の評価について、どのような指標を用いるか、目標の設定をどうするかを開示することが求められています。サプライチェーン排出量(Scope1, Scope2, Scope3)の算定については、この項目で開示することが求められています。

 指標と目標項目で推奨されている具体的な開示内容は、以下のとおりです。

  1. 組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する

  2. Scope1、Scope2及び当てはまる場合はScope3の温室効果ガス(GHG)排出量と、その関連リスクについて開示する

  3. 組織が気候関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する



5.シナリオ分析について

 この章では、シナリオ分析の意義と方法についてご紹介いたします。

 TCFD提言における推奨開示項目である「戦略」の中でも、シナリオ分析の必要性は明確に示されております。しかし、シナリオ分析は、気候変動リスクの情報開示の中でも、特に難しいとされており、弊社のお客様からもシナリオ分析に関するお問い合わせが少なくありません。


■シナリオ分析とは

シナリオ分析とは、気候変動リスクについて、自社の事業環境の変化等にどのような影響を及ぼすかを検討する手法です。不確実性の高い事業環境において、これまでのビジネスモデルの前提が大きく変わってしまう場合の、事業への影響を検討するために有効な考え方です。

TCFD提言では、シナリオ分析の考え方を用いて、2℃以下を含んだ複数のシナリオを用いて実施することが推奨されています。


また、シナリオ分析に関する開示内容としては、以下の点を論じるべきとされています。

  • 気候関連のリスク及び機械によって組織の戦略が影響を受けると思うのはどこであるか

  • そのような潜在的なリスク及び機会に対処するために、その組織の戦略がどのように変化しうるか

  • 検討される気候関連シナリオとその対象期間


■シナリオ分析の方法

 環境省によると、シナリオ分析の方法は、以下の方法ですることが推奨されています。但し、この方法はあくまで例であり、業種等により差異はあります。細かい実務内容については、別途ご紹介しますので、ここでは大まかな流れをご紹介させていただきます。


  1. 実施体制の構築

  2. 気候関連リスク評価

  3. シナリオの選択(2℃シナリオ、NDC、BAU等)

  4. 事業影響の評価

  5. 対応策の検討

  6. 各シナリオ下での戦略の強靭さについての説明



6.まとめ

  TCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示に関する注目が、今後ますます高まることは避けられないでしょう。

 企業が、気候変動リスクに関する情報開示を適切に行うことは、投資家やステークホルダーからの適切に受けることに繋がり、企業価値の向上に直結します。

 情報開示を充実させていくためには、1年などの短期の視点で考えず、中長期的にどのように取組や開示を行っていくのかを決めた上で、まずは自社でできる範囲で取り組むことが望ましいでしょう。


 本記事が、脱炭素経営・カーボンニュートラルを目指される皆様の業務の参考になれば幸いです。

 また、弊社では、TCFDに沿った開示対応等のコンサルティングをはじめ、サプライチェーン排出量自動算定ソフトウェア(Scope1, Scope2, Scope3)の提供など脱炭素経営の実現に貢献しうるサービスを提供しておりますので、お気軽にお問合せください。



(参考)環境省、TCFD、TCFDコンソーシアム、日本経済新聞